鍋編

ガイ「あいつ等みんなで食いに行くって言ってたな・・・うぜぇ馴れ合いしやがって・・・ちっ」
ガイ「・・・ってことはいつもの場所は誰も居ねえんだな・・・・・」
ガイ「ちょうど腹も減ったから適当にやるか・・・」

ガラガラ!

ガイ「―――な!?」
スルガ「おう!来た来た!」
ミカン「へ!やっぱりスルガさんはすげえぜ!ホントにきやがった!」
ミドリ「あ!ガイ君!もう食べれるよ!!さ、ここ座って!!」
ガイ「な!・・・てめえら・・・なんでここに・・・!」
スルガ「なぁに、みんなで出て行くといったら、あんたが一人でここに来るのは必然。それを待ってただけよ」
ミカン「どうせお前は誘ってもついてこねぇだろうしな・・・ミドリちゃんに頼まれなかったら絶対しなかったけどな!」
ミドリ「ほら、ガイ君!一緒に食べよ?」
ガイ「ちっ・・・くだらねぇ・・・!そうまでして仲良しごっこをやらせてぇのかよ。俺は帰る・・・!」
ミドリ「ちょっと!ガイ君!待っ―――!」
スルガ「おっと待ちな!・・・ミドリさんはな、みんなで一緒にご飯を食べたかったから今回こうして俺たちを集めた。そしてみんなのためにこの鍋を心をこめて作ってくれた・・・」
ガイ「・・・だからなんだ」
スルガ「人の親切をふいにするお前さんだ・・・どうせ『頼んでない』と言うつもりだろう。だが、ミドリさんはこうして形にしてお前さんに対しての気持ちを表した・・・これでもお前さんはそれを見過ごすのか?」
ミドリ「ガイ君・・・」
ガイ「・・・別に俺が居なくてもいいだろが・・・てめえらで勝手に食ってろ・・・!」
スルガ「この鍋は一つの料理だ。目に見えて量が振り分けられているものではない・・・だがな、ミドリさんはこの鍋一つに俺たち3人分の気持ちを込めてくれた。込められた気持ちの分だけちゃんと食べるのがミドリさんに対する礼儀だ。無論、お前に込められた分まで食べてしまうような無粋な真似は俺たちはしない・・・お前がそれを食べないと・・・鍋と、お前さんへの気持ちが残ってしまう・・・そして・・・捨てられる」
ガイ「・・・勝手にやったくせに・・・それの尻拭いをさせるのか・・・?」
ミドリ「あ、スルガさん・・・もういいよ!ガイ君は食べな―――」
スルガ「生きることへ人一倍の執着を持つお前が食べ物を粗末にするのか?くだらない意地で!!」
ガイ「・・・っるせぇ!!てめえに何が!!」

グゥ〜

ガイ「な・・・!」
ミドリ「ガ、ガイ君・・・?」
ミカン「(ちょwwwwww死んでもいいから最期に突っ込みてえええええええええ!!!)」
スルガ「やはり体は正直だな・・・!お前さんへの無償の奉仕の心がこもったこの鍋と、本能に従い食物を欲する状態の体・・・!この二つを前にしてもお前さんはこの鍋を拒否するのか・・・!?」
ガイ「・・・ちっ!・・・・・・・たくっ!今回だけだぞ・・・!」
ミドリ「!そう!!じゃ、じゃあ早速食べよ、みんな!ガイ君も早くここに座って!!」
ミカン「あ、ガイ!急がんでいいぞ!」それまでに全部食ってやるwwwwwwww」
ガイ「調子に乗ってんじゃねーぞ!くそが!」
ミドリ「ああ!もう!行儀が悪いよ!!」
スルガ「はっはっは!やっぱり鍋はみんなで囲むに越したことはないねぇ!」
ミカン「お・れ・の・だ!!」
ガイ「・・・ちんたらしてんじゃねぇ!!」
ミドリ「あ!こら!・・・もう!こぼれちゃうって・・・!」


 カムイ「…………(鍋に箸を伸ばす)」
キト「…………(静かに咀嚼)」
テツ「…………(コップに酒を注ぐ)」
ユキエ「(鍋は美味しい。とっても美味しい。ほっぺが落ちそう。 でもなんでみんな箸を黙々と動かすだけなの。)」
ユキエ「(……沈黙が辛い)……カムイ、この鍋おいしいね」
カムイ「……そうだな」
ユキエ「(会話が続かないっ……どうすれば……そうだ)……すいません、ちょっとお手洗いに……」
キト「もう暗いですし、足下にはお気をつけて……それにしても食材が多すぎたかもしれませんねえ」

ユキエ「(確か電話があの辺りにあったはず……)」
ユキエ「…………」

ユキエ「すいません。遅くなりました」
テツ「大丈夫じゃったか? 随分遅かったようじゃが」
ユキエ「はい(……後十数分の辛抱よ。 私!)」

キョウシロウ「新鮮な海の幸が! 俺を! 呼んでいるぅっ!!」
テツ「うおっ。お主どこから出てきたんじゃ。場所と場合によってはタマ取っておったかもしれんぞ」
ユキエ「……すいません。私が呼んだんです」
キョウコ「ユキエがいきなり『助けて欲しい』なんて電話してくるからびっくりしたじゃない。カムイ、ちゃんとユキエのこと考えてあげなきゃ」
カムイ「……うっ。……済まなかった」
キョウシロウ「まあ確かにこのメンバーじゃ会話が弾みそうもねーな」
イサム「という訳で私たちチーム1がお相伴に預かりに参りました次第です。こちらはお土産です。京都の銘酒と」
ドンベエ「俺が打ったうどんだ。鍋のシメといったらこいつだろう?」
キト「確かに鍋は大人数で囲んだ方がおいしいですしね。親睦会といきましょうか。食材はまだまだあります。遠慮なさらずどうぞ。」

キョウシロウ「キョウコッ! お兄ちゃんは……お兄ちゃんは、交際なんて認めないからなああぁっ!!」
キョウコ「……誰ですか。お兄ちゃんにお酒飲ませたの」
テツ「いや、飲みたそうにしてたんでな。つい」
キョウコ「『つい』じゃ無いですよ! 連れて帰るの私なんですからね!?」

ユキエ「スー…スー…」
イサム「おや、お姫さまは眠ってしまわれましたか……それにしても楽しそうな顔で」
カムイ「俺がいるとはいえ、ユキエが人前でこんな無防備に寝るとはな……」
キト「カムイさんとしては嬉しくもあり、寂しくもあり、といったところですか……おや、起きたようですよ」
ユキエ「あれ……なんでみんなこっち見て……もしかして、私寝てたの? うぅ、恥ずかしい」
ドンベエ「眠り姫も起きたところで、お開きとするか……ん?」
キョウシロウ「うわあぁぁ!! 俺は絶っ対バージンロードなんて歩かないからなあぁぁぁっ!!!」
キョウコ「キト先生、麻酔薬ありませんか?」
キト「……あまり気が進みませんが、しょうがないですね」
テツ「奴は見てて飽きないのう」

ユキエ「ふふ……楽しかった」
カムイ「……何か言ったか?」
ユキエ「ううん、何でもない」


 〜サイトウ家〜

キョウシロウ(サイキョウ)「今年もあとわずかだなー、つまんねぇ特番ばっかやってるとつくづく実感するわ」
シュウヤ(シャチホコ)「そのつまらないのをグダグダ何時間も続けるがや。もはや日本の文化と言っても過言でないぎゃ」
ジョウ(ナニワ)「ま、ええやん。年賀状書きながらBGM代わりにするには丁度ええやんけ」
キョウシロウ「………つか、なんでお前らさも当然のごとく人の家のコタツ入ってんの?年末年始は忙しいんじゃないのか?」
シュウヤ「……俺は特番には呼ばれなかったんだがや…。…駆け出しタレントは辛いがや……」
ジョウ「新大阪プロレスは年末年始は休みや。観客全員家で総合格闘技見よるからな。…それよりキョウコちゃんはどしたんや?」
キョウシロウ「キョウコのやつはまたユキエちゃんとミドリちゃんとお食事会さ。連れてって欲しかったけど一度それで痛い目見てるからな…」
シュウヤ「はぁ…結局このムサいメンツだがや…。そうだぎゃ!せっかくだから鍋するだぎゃ!」
ジョウ「おっ!ナイスアイディーア!鍋でもして温まろうや!キョウシロウ、冷蔵庫開けるで!」
キョウシロウ「人の家だぞ!ちょっとは遠慮しろよ!!」


〜そして…〜

シュウヤ「他の具はいっぱいあるのに肉はたったこれだけだがや。まったくシケた家だぎゃ」
キョウシロウ「うるせぇ!台所はキョウコの管轄なんだよ!お前ら仕事してるなら肉ぐれー買ってこいよ!」
ジョウ「アホウ、金があるならこんなシケた家に来るかいな。ワイもシュウヤも金欠なんや」
シュウヤ「んで、キョウシロウは相変わらずの無職だがや。これだけでどうにかするしか無いがや」
キョウシロウ「くっそー、食い盛りが三人揃ってこんな鍋かよ…。ったく、世間の風は冷たいぜ」
ジョウ「まぁまぁ、無いよりマシやろ。湯ぅ、沸かすで」

キョウシロウ「(まぁ、肉は全部俺が貰うけどな…。こいつらに貴重な肉を渡してたまるか)」
シュウヤ「(こんな目立たない連中に肉を渡すわけにはいかんがや。俺こそが鍋将軍だぎゃ)」
ジョウ「(ククク…甘いでぇ、二人とも。もう鍋将軍争奪戦ははじまっとるんや!)」
 

〜東席…キョウシロウ・サイトウ〜

キョウシロウ「(ちぃっ、こいつら隙がねぇ!どうしても肉を取る気だな…?)」
キョウシロウ「(親父、母さん…こういう時はどうすればいいんだ…!)」

キョウイチ(父)『知るか、馬鹿倅。あー、年末のくだらねぇ特番見ながら焼酎美味ぇな』
サクラ(母)『あなたったらお行儀が悪いですよ。キョウシロウ、こうなっちゃ駄目よ?』

キョウシロウ「(年末の特番?…そうか!)」

テレビ「では、今年最高視聴率を叩き出した歴史ドラマ“圧姫”についてですが…」

キョウシロウ「あ!イサムさんが出てるぜ!!」
シュウヤ「本当だがや!まったくこの人も出世したもんだぎゃ!」
ジョウ「うわー、テレビで見ると男前やなぁ。ワイら、この人と知り合いなんやで!」

キョウシロウ「(今だぁッ!!サイキョウキャッチ!!)」

ガキィッ! ←箸同士がぶつかった音

キョウシロウ「何ィ!?」
シュウヤ「フッフッフ…まだ煮えとらんがや、キョウシロウ君?焦っちゃ腹を下すだぎゃ」
ジョウ「クックック…その通りや。まぁ、座ってテレビ見よや」

キョウシロウ「(ハメられた…!クソッ、こいつら…できる!)」
シュウヤ「(甘いがや。今はイサムさんよりも肉!俺らが忘れるわけないだぎゃ!)」
ジョウ「(騙まし討ちはこっちの専売特許やで。パターンは見え見えや…ヒヒヒ…)」
 

〜北席…シュウヤ・ハシバ〜

シュウヤ「(キョウシロウは今のでしばらく警戒に回るはずだがや…。次は俺が攻めるだぎゃ!)」
シュウヤ「(こんなこともあろうかと、用意していた味噌の壷…)」

【シミュレーション】

シュウヤ「ちょっと味が薄いがや!味噌を入れてアクセントを加えるがや!」 ドボドボドボ…
シュウヤ「ああっ、ちょっと入れすぎちゃったぎゃ!でもまだ食べられるがや!」
キョウシロウ「げーっ!ぺっぺっ!こんなに味噌が濃くなっちゃ食べられないぜ!」
ジョウ「こんなんを食べれるんは名古屋人だけや!シュウヤ、この鍋はお前のもんや!」
シュウヤ「あ、そうだがや?じゃ、遠慮なくいただきまーす!」

【シュミレーション終了】

シュウヤ「(完璧だぎゃ…!よし、行くがや!)」
シュウヤ「ちょっと味が薄いがや!味噌を入れてアクセントを加えるがや!」
キョウシロウ&ジョウ「!!!!」
シュウヤ「(勝った!鍋戦争完ッ!!)」

スカッ

シュウヤ「なっ…!嘘だぎゃ!!」
キョウシロウ「あれえ?どうしたのかな、シュウヤ君?味噌切れみたいだね?」
ジョウ「あかんなぁ、名古屋の味噌はつい美味しすぎてつまみ食いしてしまうんや」

シュウヤ「(こ、こいつら…!全てを見越して味噌を食っちまってたがや…!)」
キョウシロウ「(バーカ!てめぇが味噌壷出した時点で考えは読めてたんだよ!この味噌中毒が!)」
ジョウ「(詰めが甘いでぇ、シュウヤ!隠し玉は最後まで隠しとるから隠し玉って言うんや!)」
 

〜西席…ジョウ・ナンバ〜

ジョウ「(ヒヒヒ…キョウシロウ、お前は焦りすぎた。箸を止めさせる口実を作ったんやからなぁ…)」
ジョウ「(シュウヤ、お前は策に溺れたな。味噌作戦失敗した後のお前は天守閣から落ちたシャチホコや!)」
ジョウ「(最後に笑うんはワイやで!そろそろ仕掛けが作動するはず…)」

ピンポーン

キョウシロウ「!!」
シュウヤ「!!」
ジョウ「あ、誰か来たみたいやなぁ…キョウシロウ、出んでええんか?」

キョウシロウ「(来客っ…!このタイミングでっ…!明らかに、罠っ…!)」
キョウシロウ「(しかし居留守なんて使ったらキョウコに怒られる…!)」
キョウシロウ「チクショウ!今出ますよ!!」 ダッダッダッダッ…

ジョウ「(キョウシロウ脱落…!そして…!)」
ジョウ「はー、なんか寒いなぁ。シュウヤ、コタツの温度上げてくれや」
シュウヤ「(し…しまったぁッ!こっちはコタツの温度操作ができる面だぎゃ!)」
シュウヤ「い…嫌だがや!俺は丁度いい温度だがや!」
ジョウ「ええ!?ワイ、寒がりなんや。このままやとクシャミをしてまいそうで…。へっ…へっ…」
シュウヤ「だぁぁっ!わかったがや!!今温度を上げてやるだぎゃ!!鍋に唾飛ばしたら許さんがや!!」
ジョウ「(チョロいもんやで!!ヒャッハー!肉はいただきや!!)」


ロイ(フォートレス)「お邪魔させてもらう」
キョウシロウ「ロイ!?なんでお前が!?」
ロイ「ジョウがジャパンの鍋料理というものを教えてくれるそうなのでな。邪魔だったか?」
キョウシロウ「い…いや、邪魔ってこたぁねーけど…。チッ、あいつめ…こういう作戦か…」
ロイ「…? とりあえず…手ぶらではどうかと思ったのでこんなものを用意したのだが…」
キョウシロウ「お、マジ? ―――…って、これはーーーーッ!!」

ジョウ「ああ〜、美味いわ〜。どした?食わんのか、シュウヤ?」
シュウヤ「(クッ…しっかり肉をキープしてよく言うがや…!)」
ジョウ「(ヒヒヒ…ワイの一人勝ちやな。来年もええ年になりそうやで…!)」

ロイ「ほう、これが鍋料理か…。美味しそうだな…」
キョウシロウ「さぁさぁ王子!こちらの南席へどうぞ!上座でございまッス!」
ロイ「き…気持ち悪いぞキョウシロウ!さっきから何だと言うんだ!」

ジョウ「おっ、来たなロイ。まぁ、座れや。鍋は美味しいでぇ!」
シュウヤ「ロイ!こんなシケた家にわざわざシケた鍋を食いに来たんぎゃ?」
キョウシロウ「シケた家にシケた鍋だとォ!?控えい控えい!!このお肉様を見てもまだそんな口が叩けるかァ!!」

 バ ン !

シュウヤ&ジョウ「そっ、それはーーーーーッ!!!!」

ロイ「大袈裟な者どもだな…。ただの肉だろう」
キョウシロウ「そうそう!最高級神戸和牛なんてただの肉ッスよねぇ!!」
シュウヤ「さ…最高級神戸和牛…!まさかお目にかかれるとは…!」
ジョウ「し、しもた…!調子に乗って安い肉食いすぎ…ウップ…」

キョウシロウ「(だーっはっはっはっは!自滅したな、ジョウ!!俺の悪運は最強なんだよ!!)」
シュウヤ「(いい気味だがや!結局お前の策もヌケ策だったんだぎゃ!…さぁ、ここからは…)」

ロイ「うむ、これがコタツというものか…暖かい…。シーランドにも是非広めるとしよう」

キョウシロウ「(俺と!!)」
シュウヤ「(俺の!!)」
キョウシロウ&シュウヤ「(一騎打ちだ!!)」

 

グツグツグツ…

キョウシロウ「(もう策なんて関係ねぇ…ここから先は単純なスピード勝負…!)」
シュウヤ「(茹で上がった瞬間、最高級神戸和牛を最速で獲得!その者こそが鍋将軍!)」
ジョウ「ええねん…もう何がどうでもええねん…世界なんて滅びればええねん…」
ロイ「そうか、鍋とはこういうものなのだな。データヘイブン完了だ」

キョウシロウ「(色が変わったッ!今だぁッ!!)」
シュウヤ「(させんがや!肉は全て俺のものだぎゃあッ!!)」

シュンッ カンッ! カンッ!

キョウシロウ「えっ?」
シュウヤ「なん…だと…?」
ロイ「まだ早いだろう。出来上がったら配膳してやるから待っていろ」
キョウシロウ「いや、これぐらいの方が美味しいッ!」 シュッ
シュウヤ「素人は口出しするべきではないがやッ!」 シュッ
ロイ「そう慌てるものじゃない。ほら、この野菜とかどうだ?」 カンッ! カンッ!

キョウシロウ「(馬鹿な…!俺たちの箸が全て防がれているッ…!)」
シュウヤ「(こ、このディフェンス…!鍋素人の動きじゃあないッ…!これはまさに…)」
キョウシロウ&シュウヤ「( 要塞《フォートレス》!! )」

ロイ「…うむ、美味だ!肉、そろそろいいぞ!……どうした?」
キョウシロウ「なんか…全部馬鹿らしくなってきたわ…」
シュウヤ「俺たち…なんのために争ってたんだがや…」
ジョウ「光が…広がってゆく…」

ロイ「…? たかが料理に勝敗があるとは…やはり日本の文化は難しいな」

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